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秋田地方裁判所 昭和23年(ヨ)60号 決定 1949年1月10日

秋田市

申請人

田淵正二

外 五百九十名

東京都

被申請人

帝国石油株式会社

主文

本件仮処分命令申請は東京地方裁判所へ移送する。

理由

本件申請の要旨は申請人等が被申請人を相手方として団体協約有効並に解雇無効の各確認の本案訴訟を提起することを前提とし、該訴訟の確定に至る迄「被申請人は申請人等が従来の職場で従来の地位で業務を行うことを妨げてはならない。そして申請人等に対する賃金の支払その他の労働条件については、他の従業員と差別してはならない。」との裁判を求め、其の理由は、申請人等は孰れも帝国石油株式会社秋田鉱業所の従業員で、旦同会社の従業員を以て組織する帝国石油労働組合の組合員であり、被申請人は右秋田鉱業所に関する事務を秋田市根小屋町上丁五の一に於て行い、石油の採掘採油等を業とする会社で酒井喜四は其の総裁である。而して右組合と被申請人との間には昭和二十三年六月頃から人員整理並に労働協約改訂の問題に付て紛争が続けられて来たが、同年九月二十二日被申請人は一方的に右労働協約解除の通告を為し、人員整理の断行を企て該組合の役員並に組合活動を活発に行つた者を馘首するとて組合の分裂を企てつつ、同年十一月十七日右組合の中央闘争委員長等組合主脳者との間に組合員二千十六名の人員整理に関する仮協定を結び同組合の中央闘争委員会の調印を得た。然し右仮協定は同年十一月二十六日から開かれた同組合の中央大会で否決された上、同大会で更に右整理問題に付交渉委員十数名を選出し、之等の者をして被申請人と交渉に当らせることにした。然るに被申請人は同年十二月二日申請人等に対し無断で解雇を通告して来た。他方前記交渉委員等は同月六日多数決(秋田関係委員は反対)を以て前記仮協定による人員整理を受諾し協定書に調印したが、唯之に付秋田鉱業所に関する部分は中央闘争委員会で秋田地方の独自の行動を承認した。従て以上の様な手続による解雇は被申請人と組合との間に締結された労働協約経営協議会規約並に人事委員会規約に反するばかりでなく、右解雇が組合の役員又は嘗て役員であつた者並に組合活動に熱心であつた者に集中的に行われて居ることは労働組合法第十一条違反であり、嘗て争議行為をしたことを理由として居る点は労働関係調整法第四十条に違反し、又前記の通り秋田関係は独自の行動を採ることを承認された居るのであるから右協定の効力は申請人等には及ばないものであり、更に該協定は単に整理人員数を定めたものに過ぎず、従てそれによつて直ちに申請人等が解雇されることにはならない。其の上前記各法律に違反する行為は絶対的に無効であるから、如何なる者が之を容認しても有効とはならないので以上孰れの点から見ても斯る解雇は無効である。

以上の様な事情にあるので申請人等は団体協約有効並に解雇無効の各確認を求める訴訟を提起すべく準備を進めて居るが、其の確定を待つて居ては申請人等の生活に重大な脅威を及ぼすばかりでなく、組合活動にも大きな動揺を来たす虞があるので、右本案の訴の提起を前提として民事訴訟法第七百六十条に基き申請の趣旨記載の如き裁判を求めるものであると謂うにある。

仍て按ずるに本件仮処分命令申請の前提となる本案の訴訟は申請人等が被申請人(会社)を相手方として団体協約有効並に解雇無効の各確認を求めるものであることは申請人等の主張によつて明かである。

然るに被申請人の所在地は東京都内に在るのみならず、右確認を求める事柄は被申請人の営業所で当裁判所の管轄地域内に在る秋田鉱業所の業務に関するものでもないので、結局当裁判所には右本案訴訟に付普通裁判籍は勿論其の他特別の裁判籍もなく該訴訟は被申請人の主たる事務所又は営業所の所在地を管轄する東京地方裁判所の管轄に属するものと謂うべきである。

而して仮処分命令申請の管轄は本案の管轄裁判所に専属するので、民事訴訟法第七百六十一条に基かず且又未だ本案訴訟の提起されて居ない本件仮処分命令申請にあつては右東京地方裁判所の管轄に専属するものであり当裁判所は其れに対し管轄を有しない。

依て民事訴訟法第三十条に基き主文の通り決定するものである。

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